株式会社PREVENT(本社:愛知県名古屋市、代表取締役:萩原悠太、以下 PREVENT)は、社内研究組織Insight Labを中心に、日本の企業従業員2,223名を対象に、デスクワーカーにおける腰痛と労働生産性損失の関連を調査し、痛みの強さや身体機能障害よりも、腰痛に対する認知的信念やパーソナリティ特性(誠実性・神経症傾向)が生産性損失とより強く関連することを明らかにしました。
本研究成果は産業衛生学会の公式国際学術誌であるEnvironmental and Occupational Health Practice に掲載されました。
参照リンク: https://doi.org/10.1539/eohp.2025-0025
本研究は、腰痛を有するデスクワーカーにおいて、心理的・認知的要因およびパーソナリティ特性が労働生産性損失(プレゼンティーイズム)にどのように関連するかを明らかにすることを目的とした横断研究です。2024年10月〜11月に、日本の民間保険会社に勤務する全従業員3,953名を対象にオンライン質問票を配布し、2,223名(回答率56.2%)から回答を得ました。
労働生産性はQuantity-Quality(QQ)法により評価し、最適な健康状態を100%としたときの自己評価生産性を測定しました。腰痛の評価には、痛みの強さ(数値評価スケール:NRS)、機能障害(Roland-Morris Disability Questionnaire:RMDQ)、腰痛に対する信念(Back Beliefs Questionnaire:BBQ)を使用しました。パーソナリティ特性はTen Item Personality Inventory(TIPI)によりBig Five(外向性・協調性・誠実性・神経症傾向・開放性)の5次元を評価し、身体活動量は国際身体活動質問票(IPAQ)で測定しました。重回帰分析により、腰痛を有する参加者における生産性損失の関連因子を検討しました。
腰痛を有する参加者(1,201名)を対象とした重回帰分析の結果、腰痛に対する信念(BBQ 9項目合計スコア)が高い(より肯定的な信念を持つ)ほど生産性損失が低く(β=−0.40; 95%信頼区間:−0.70〜−0.09, p=0.011)、誠実性が高いほど生産性損失が低い(β=−0.99; 95%信頼区間:−1.69〜−0.28, p=0.006)ことが示されました。一方、神経症傾向が高いほど生産性損失が大きく(β=1.02; 95%信頼区間:0.29〜1.75, p=0.007)、年齢が高いほど生産性損失が低い(β=−0.18; 95%信頼区間:−0.30〜−0.06, p=0.002)ことが明らかになりました。
注目すべきは、痛みの強さ(NRS; p=0.139)および身体機能障害(RMDQ; p=0.574)は生産性損失と有意な関連を示さなかったことです。モデル全体の説明率(調整済みR²)は7.6%でした。腰痛を生産性低下の主因と回答した504名に限定した感度分析でも、腰痛に対する信念と神経症傾向は生産性損失と有意に関連し、痛みの強さは関連を示さず、主解析と一貫した結果が得られました。
本研究は、デスクワーカーにおける腰痛関連の生産性損失において、痛みそのものよりも心理的・認知的要因が重要な役割を果たすことを示した点で意義があります。この知見は、職場における腰痛対策が痛みの軽減のみに焦点を当てるだけでは不十分であり、認知的リストラクチャリング(腰痛に対する否定的な信念の修正)やストレスマネジメント、パーソナリティ特性に応じた個別化された支援戦略が必要であることを示唆しています。
実装の観点からは、産業保健スタッフが簡易的なスクリーニングツールを活用し、従業員自身が自らのパーソナリティ特性(高い神経症傾向や過剰な仕事へのコミットメントなど)や認知的バイアスに気づく機会を提供することが考えられます。こうした自己認識の向上は、プレゼンティーイズムが身体的・精神的負担をさらに悪化させるメカニズムへの理解を促し、将来的な生産性損失の予防と長期的な健康維持につながる可能性があります。一方で、本研究は横断研究であるため因果関係の推定には限界があり、今後は縦断的研究デザインや客観的な生産性指標を用いた検証が求められます。
株式会社PREVENTは企業様向け事業として、健康経営・労働安全の観点から企業と従業員を支援するサービス「SaniQara(サニカラ)」を展開しております。詳細:https://prevent.co.jp/saniqara/
2016年7月設立の名古屋大学医学部発スタートアップ企業。企業健保・自治体国保に向けて、保健事業の計画立案や生活習慣病重症化予防事業の提供、保健事業の事業評価などを推進。また、保険者支援の事業を通じて培った「データ解析力」、「RWD」、「各種ソリューション」等のアセットを活用し、製薬業界に関わるステークホルダーへの支援を推進している。大学発スタートアップとしてデータや研究ノウハウを活用したデータ駆動型の事業に強みを持つ。
PREVENTのビジョン、「科学と社会実践の融合」を具現化するために立ち上げられた研究部門であるInsight Labは、最新の科学的成果を社会に適用し、研究成果の社会への実装を通じて社会問題の解決に貢献することを目標としています。健康関連を含む多岐にわたる分野での研究プロジェクトを進行させ、理論から実践への架け橋となる役割を担っています。
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