株式会社PREVENT(本社:愛知県名古屋市、代表取締役:萩原悠太、以下 PREVENT)は、社内研究組織Insight Labを中心に、英国の大規模な高齢者縦断調査データ(6,468名)を因果推論に基づく手法で分析し、美術館・劇場・コンサートなどの文化的な活動への参加が、6年間の追跡期間において高齢者の痛みの有病率を有意に低下させること、とりわけ配偶者やパートナーがいない人、近しい家族との接触が月1回未満の人といった社会的に孤立した高齢者で効果が大きいことを明らかにしました。
本研究成果は、総合医学分野の国際学術誌である eClinicalMedicine(The Lancet Discovery Science)に掲載されました。 参照リンク: https://doi.org/10.1016/j.eclinm.2024.102477
社会的孤立は、社会的なネットワークの小ささや社会的接触の乏しさを客観的に表す状態であり、早期死亡やうつ、認知症リスクの上昇など、さまざまな健康アウトカムと関連することが知られています。とりわけ高齢者は、独居や家族・友人との死別、慢性疾患などにより社会的孤立に陥りやすく、その健康影響への対応が重要とされています。
文化的活動(美術館・美術展・劇場・コンサート・オペラなどへの参加)は、高齢者が社会的なつながりを保ちながら孤立を和らげる心理社会的活動の一つであり、心理的な健康や社会的孤立のみならず、痛みの管理にも良い影響を及ぼす可能性が注目されてきました。しかし、社会的孤立の各側面が刻々と変化するなかで、文化的活動が本当に痛みのリスク低減につながるのかは明らかではありませんでした。
そこで本研究は、英国の代表性のある縦断データ(ELSAのウェーブ6〜9、2012〜2019年)を用い、因果推論に基づく手法(Longitudinal modified treatment policy)によって、社会的孤立の各側面ごとに、文化的活動への参加が痛みのリスクをどの程度左右するかを推定した前向き縦断研究です。曝露変数はウェーブ6〜8で測定した文化的活動への参加、アウトカムはウェーブ9で評価した中等度〜重度の痛みとしました。社会的孤立は、配偶者・パートナーの有無、子ども・近しい家族・友人との接触頻度、団体等への参加の有無という各側面を独立して評価し、年齢・性別・教育歴・世帯所得・関節炎・身体活動・抑うつ症状・BMI・握力などの時間依存・時間非依存の交絡因子と、追跡脱落によるバイアスを調整しました。

BMIや握力の欠測者を除いた6,468名を分析対象とし、うち4,343名が4回すべての調査に回答しました。各種の交絡因子と追跡期間中の打ち切りを調整したうえで、文化的活動への参加を想定した複数のシナリオと、実際に観察されたデータ(ベースラインの痛み有病率29.2%)を比較しました。
その結果、追跡期間の各時点で全参加者が文化的活動に参加した場合、痛み有病率は24.1%(95%信頼区間 19.5〜28.8)へと最も大きく低下し、実際の観察値との差は5.1ポイント(95%信頼区間 1.0〜9.6)でした。社会的孤立の側面別にみると、配偶者・パートナーがいない人に文化的活動を想定した場合は有病率が25.8%へと3.4ポイント低下し(95%信頼区間 0.4〜6.4)、近しい家族との接触が月1回未満の人では25.3%へと3.9ポイント低下しました(95%信頼区間 0.2〜7.6)。いずれも統計的に有意な低下でした。
一方で、子どもとの接触が月1回未満の人、友人との接触が月1回未満の人、団体・宗教グループ・委員会などに参加していない人については、文化的活動への参加を想定しても痛み有病率の有意な低下は認められませんでした。痛みの定義や文化的活動の頻度の基準を変えた感度分析でも、主要な結果と整合的な所見が得られ、未測定の交絡因子に対する頑健性を示すE値も一定の値を示しました。
本研究は、文化的活動への参加が社会的に孤立した高齢者の痛みを軽減しうることを、因果推論に基づく手法を用いて定量的に示した点で意義があります。とりわけ、配偶者やパートナーがいない人、近しい家族との接触が少ない人といった、痛みのリスクが高く、社会的支援を得にくい層で効果が大きいことが示されました。配偶者や近しい家族は重要な社会的支援の源であり、そのつながりを失った人にとって、文化的活動がもたらす安心感やつながりが痛みの緩和に寄与している可能性が考えられます。
実装の観点からは、地域社会の社会的支援や活動へと患者をつなぐ「社会的処方(social prescribing)」の枠組みのなかで、文化的活動への参加を促すことが、痛みの負担を和らげる一つの戦略となりうることを示唆しています。文化的活動の効果は一様ではなく、対象によって異なるため、痛みの管理においては身体的側面だけでなく社会的側面も考慮し、リスクの高い層に的を絞った介入を設計することの重要性が示されました。
一方で、本研究は非検証の質問項目を用いていること、観察研究に基づく因果推論であり未測定交絡の影響を完全には排除できないこと、6年間の追跡で3割超が脱落したこと、社会的孤立の各側面を独立に扱っており複数の側面に該当する人への効果を検討できていないことといった限界があります。今後は、これらの知見を確認し、文化的活動・社会的孤立・健康アウトカムの関係の背景にあるメカニズムを解明するための、さらなる研究が求められます。
PREVENTは、生活習慣病の重症化予防をはじめとする健康支援事業を通じて、身体的な要因だけでなく、社会的なつながりや心理的な状態が人々の健康に果たす役割の大きさに向き合ってきました。本研究が示した「社会的に孤立した高齢者において文化的活動が痛みの軽減につながりうる」という知見は、一人ひとりの生活背景や社会的状況に応じた個別化された支援の重要性を、あらためて裏づけるものです。PREVENTは今後も、こうした科学的知見を自社の健康支援サービスや保険者支援の実践に還元し、社会実装につなげてまいります。
2016年7月設立の名古屋大学医学部発スタートアップ企業。企業健保・自治体国保に向けて、保健事業の計画立案や生活習慣病重症化予防事業の提供、保健事業の事業評価などを推進。また、保険者支援の事業を通じて培った「データ解析力」、「RWD」、「各種ソリューション」等のアセットを活用し、製薬業界に関わるステークホルダーへの支援を推進している。大学発スタートアップとしてデータや研究ノウハウを活用したデータ駆動型の事業に強みを持つ。
PREVENTのビジョン、「科学と社会実践の融合」を具現化するために立ち上げられた研究部門であるInsight Labは、最新の科学的成果を社会に適用し、研究成果の社会への実装を通じて社会問題の解決に貢献することを目標としています。健康関連を含む多岐にわたる分野での研究プロジェクトを進行させ、理論から実践への架け橋となる役割を担っています。
お問い合わせの他、各種サービス内容をまとめた資料や、
Myscopeのサンプルレポートをダウンロードいただけます。