株式会社PREVENT(本社:愛知県名古屋市、代表取締役:萩原悠太、以下 PREVENT)は、社内研究組織Insight Labを中心に、名古屋大学医学部附属病院との共同研究として、約85万人規模の健診・レセプトデータベースを解析し、軽度の慢性腎臓病(CKD)を持つ日本人を対象に、虚血性心疾患・脳血管疾患による入院や重大な腎イベントの将来リスクを予測するモデルを開発・検証しました。健診や処方といった日常的に得られるデータのみで将来のリスクを推定できる点が特徴で、早期の介入によって重症化予防と医療費適正化に資することが期待されます。
本研究成果は、腎臓病学分野の国際学術誌である BMC Nephrology に掲載されました。 参照リンク: https://doi.org/10.1186/s12882-024-03786-6
慢性腎臓病(CKD)は世界人口の10%以上が罹患する主要な非感染性疾患であり、早期には無症状であることが多いため、診断・治療が遅れがちです。CKDの患者は早期の段階から心血管イベントや早期死亡のリスクが高く、たとえわずかな腎機能の低下であっても心血管リスクの上昇と関連することが知られています。そのため、早期の発見と管理が予後の改善に不可欠とされています。
これまでにも心血管リスクを評価する予測モデル(フラミンガムリスクスコアなど)が開発されてきましたが、これらはCKD特有のリスク因子を考慮しておらず、CKD患者では予測精度が不十分であることが報告されてきました。また、CKD向けに開発された既存モデルの多くは、日常の健診では得られにくい検査データを必要とするうえ、ステージ3以上の進行例を対象としており、より早期の軽度CKD患者の特性や必要性に十分応えられていませんでした。
そこで本研究は、軽度CKDを持つ日本人を対象に、日常的に得られる健診・処方データを用いて、心血管・腎イベントの将来リスクを予測する新たなモデルを開発・検証することを目的とした後ろ向きコホート研究です。対象は、PREVENTのデータベース(健康保険者から提供された匿名加工済みのレセプト・健診データ、および富山県国民健康保険のデータ)に含まれる約85万人のうち、2013年4月〜2023年4月のデータを持つ18歳以上の軽度〜中等度CKD(ステージ1・2・3a)該当者です。すでに重大な心血管・腎イベントの既往がある人や追跡中に死亡した人は除外しました。予測因子には年齢・性別・BMI・糖尿病・喫煙・高血圧・脂質異常症・血圧・HDL・LDLを用い、専門的な検査を要するeGFRはあえて含めず、幅広い現場で使えるシンプルさと汎用性を重視しました。開発コホート(80%)でリスクスコアを構築し、検証コホート(20%)と5分割交差検証で性能を評価しました。
解析対象となった40,351名において、IHD/CVDによる入院と重大な腎イベントのいずれについても、年齢がリスクスコアを大きく高める因子であることが示されました。IHD/CVDによる入院では、男性・喫煙・糖尿病・高血圧・高い血圧区分がより高いリスクスコアと関連しました。一方、重大な腎イベントでは年齢(特に65歳以上)・男性・高血圧が有意な因子であり、喫煙や血圧区分は有意な影響を示さず、心血管イベントと腎イベントとでリスク因子が異なることが明らかになりました。
モデルの識別能を示すc-indexは、検証コホートにおいてIHD/CVDによる入院で平均0.75(95%信頼区間 0.736〜0.771)、重大な腎イベントで平均0.685(95%信頼区間 0.599〜0.770)でした。開発コホートでも同等の値が得られ、未知のデータに対しても頑健な予測精度を示しました。
さらに、リスクスコアから5年以内のイベント発生確率を推定したところ、IHD/CVDによる入院は低スコア群(0〜20点)の3%から高スコア群(36点以上)の31%へと段階的に上昇しました。重大な腎イベントも同様にスコアの上昇とともに増加しましたが、その幅は0%から最大5%とより緩やかでした。この差は、腎イベントを「腎不全への到達」という厳格な定義で捉えたことや、心血管イベントと腎機能低下の進行メカニズムの違いを反映していると考えられます。
本研究は、これまで十分に評価されてこなかった軽度CKD患者に特化し、日常的に得られる健診・処方データのみで心血管・腎イベントの将来リスクを予測できるモデルを、大規模な日本人集団で開発・検証した点で意義があります。専門的な検査を必要とせず、資源の限られた環境でも運用できるため、日々の診療や保健事業に組み込みやすいことが大きな特徴です。
実装の観点からは、リスクスコアによって患者をリスク区分に層別化し、高リスクの個人を早期に特定できることで、生活習慣の改善や血圧・血糖の管理、適切な薬物療法の開始といった、より重点的な予防的介入へとつなげられる可能性があります。予防的な対応は、透析や移植といった進行後の治療に比べて費用対効果が高いとされており、患者の予後改善と医療費の適正化の双方に資することが期待されます。
一方で、本研究は主に日本人を対象としており、他の集団への一般化には限界があります。また、レセプト・健診データに基づくため食事・運動・社会経済的要因を考慮できていないこと、CKDステージの判定に尿定性検査(尿試験紙)を用いていること、ICD-10コードに由来する誤分類の可能性、実臨床での検証がまだ行われていないこと、追跡期間中の服薬内容を十分に反映できていないことといった限界があります。今後は、外部データによる検証や前向き研究による臨床的な妥当性の確認が求められます。
PREVENTは、生活習慣病の重症化予防をはじめとする健康支援事業を通じて、健康リスクの高い層を早期に見極め、一人ひとりの状態に応じた個別化された支援を提供することに取り組んできました。本研究で開発したリスク予測モデルは、まさにこうした「データに基づく早期発見と個別化された介入」というPREVENTの事業の方向性を体現するものです。PREVENTは今後も、大学等との共同研究を通じて得た科学的知見を自社の健康支援サービスや保険者支援の実践に還元し、社会実装につなげてまいります。
株式会社PREVENTは、生活習慣病の将来の重症化リスクを予測する医療データ解析サービス「Myscope(マイスコープ)」を提供しています。Myscopeは、健康診断結果を単一の数値だけで評価するのではなく、年齢・体重・生活習慣・既往歴などさまざまな条件を踏まえて相対的に重症化リスクを抽出する健康支援サービスです。PREVENTが保有する約100万人分のレセプトおよび健康診断結果をデータベース化し、それをもとに構築した脳梗塞・心筋梗塞の発症率を予測する独自のアルゴリズムを用いて、各種検査項目を総合的に評価し、重症化リスクを8段階に層別化します。これにより、健康保険組合様・自治体様は支援が必要な対象者を優先順位づけし、より効率的かつ効果的な健康支援を実施することが可能です。あわせて、脳血管疾患・虚血性心疾患の発症率や薬剤追加の発生率の変化を試算し、「将来にかかる医療費の適正化効果」の推定値を算出することで、保健事業の定量的な評価も行えます。詳細:https://prevent.co.jp/myscope/
2016年7月設立の名古屋大学医学部発スタートアップ企業。企業健保・自治体国保に向けて、保健事業の計画立案や生活習慣病重症化予防事業の提供、保健事業の事業評価などを推進。また、保険者支援の事業を通じて培った「データ解析力」、「RWD」、「各種ソリューション」等のアセットを活用し、製薬業界に関わるステークホルダーへの支援を推進している。大学発スタートアップとしてデータや研究ノウハウを活用したデータ駆動型の事業に強みを持つ。
PREVENTのビジョン、「科学と社会実践の融合」を具現化するために立ち上げられた研究部門であるInsight Labは、最新の科学的成果を社会に適用し、研究成果の社会への実装を通じて社会問題の解決に貢献することを目標としています。健康関連を含む多岐にわたる分野での研究プロジェクトを進行させ、理論から実践への架け橋となる役割を担っています。
お問い合わせの他、各種サービス内容をまとめた資料や、
Myscopeのサンプルレポートをダウンロードいただけます。