2026.03.09 論文

【論文公開】モバイルヘルスを活用した疾病管理プログラムによる高血圧改善効果とその個人差を解明

株式会社PREVENT(本社:愛知県名古屋市、代表取締役:萩原悠太、以下 PREVENT)は、社内研究組織Insight Labを中心に、高血圧・糖尿病・脂質異常症を有する従業員3,092名を対象に、6か月のモバイルヘルスを活用した疾病管理プログラム「Mystar」の高血圧コントロールに対する効果と、その効果の個人差(治療効果の異質性)を検証しました。標的試験エミュレーション(Target Trial Emulation)※1 の枠組みとアンサンブル機械学習を組み合わせた因果推論手法により、Mystar参加群では1年後の血圧管理不良者の割合が約5.2%低いことが示され、さらに、改善がみられやすい集団とみられにくい集団の特徴が明らかになりました。

本研究成果は国際学術誌PLOS Digital Healthに掲載されました。

参照リンク: https://doi.org/10.1371/journal.pdig.0001268

研究のポイント

  • Mystar参加群は、通常治療のみの群と比較して、1年後の血圧管理不良者の割合が5.2%(95%信頼区間:4.4%〜6.0%)低く、リスク比は0.81。治療必要数(NNT)※2 は19.2でした。
  • 治療効果には大きな個人差があり、クラスタリング分析により「改善が得られやすい群」と「改善が得られにくい群」の2グループを同定しました。
  • 改善が得られやすい群(条件付き平均治療効果*※3*:−17%、NNT 5.9)は、生活習慣改善への意欲が高い、非喫煙者、拡張期血圧が高め、日常的に歩行習慣がある、肝機能指標(GOT・γ-GTP)が低い、といった特徴を有していました。

研究の概要

本研究は、PREVENTが健康保険組合経由で提供する6か月のモバイルヘルスを活用した疾病管理プログラム「Mystar」の効果を、標的試験エミュレーションの枠組みで検証した観察研究です。2021年6月〜2023年12月の特定健康診査データおよびレセプトデータを用い、高血圧・糖尿病・脂質異常症のいずれかで治療中または冠動脈疾患・脳卒中の既往を有する従業員3,092名(Mystar参加群127名、通常治療群2,965名)を解析対象としました。

Mystarは、スマートフォンアプリを通じた体重・血圧・身体活動・食事などの生活習慣の記録と、医療専門職による隔週の電話相談(計12回)およびチャットサポートを組み合わせたオンライン完結型の生活習慣改善支援プログラムです。運動・食事・睡眠・飲酒・禁煙・ストレス管理について個別の行動目標を設定し、パーソナライズされた指導を実施しました。

主要評価項目は、1年後の健康診断における血圧管理不良(収縮期血圧≧140 mmHgまたは拡張期血圧≧90 mmHg)の有無としました。因果効果の推定には、G-formula(アウトカムを予測するモデルを標準化する手法)に複数の機械学習アルゴリズムを組み合わせる手法を統合し、平均治療効果(ATE)※4 および個別治療効果(ITE)※5 を算出しました。さらに、Ward.D2法によるクラスタリング分析でITEの異質性を評価し、効果修飾因子を特定しました。

注釈
※1 標的試験エミュレーション(Target Trial Emulation):理想的なランダム化比較試験(RCT)の設計を明示的に定義し、観察データを用いてその試験を模擬する因果推論の枠組み。RCTの実施が困難な状況でも、バイアスを可能な限り最小化しながら治療効果を推定することを可能にする。※2 治療必要数(NNT: Number Needed to Treat):1人の対象者に治療/介入の恩恵をもたらすために何人を治療する必要があるかを示す指標。値が小さいほど治療の効率が高い。
※3 条件付き平均治療効果(CATE: Conditional Average Treatment Effect):特定の特徴(性別・年齢・運動習慣などの個人の特徴や条件)を共有するサブグループにおける平均的な治療効果。集団全体の平均とは異なり、個人の特徴や条件に応じた効果を示す。
※4 平均治療効果(ATE: Average Treatment Effect):集団全体における治療/介入群と対照群の平均的なアウトカムの差。介入の全体的な効果を表す。
※5 個別治療効果(ITE: Individual Treatment Effect):各個人において、治療/介入を受けた場合と受けなかった場合のアウトカムの差として推定される効果。治療効果の個人差を評価するために用いられる。

研究の結果

Mystar参加群は、通常治療群と比較して、1年後の血圧管理不良者の割合が5.2%(95%信頼区間:4.4%〜6.0%)低い結果となりました。リスク比は0.81(95%信頼区間:0.78〜0.84)、NNTは19.2(95%信頼区間:16.7〜22.7)でした。

個別治療効果の分布には大きなばらつきがあり(中央値:−0.06、四分位範囲:0.25)、クラスタリング分析により2つのサブグループが同定されました。

  • 改善が得られやすい群:条件付き平均治療効果 = −0.17(95%信頼区間:−0.19〜−0.15)、リスク比0.41、NNT 5.9。生活習慣改善への意欲が高い(92%)、非喫煙者が多い(71%が非喫煙)、拡張期血圧が高め(平均82.9 mmHg)、日常的な歩行習慣を持つ割合が高い、肝機能指標が良好、比較的若い(平均49.2歳)といった特徴でした。
  • 改善が得られにくい群:条件付き平均治療効果 = 0.10(95%信頼区間:0.08〜0.12)、リスク比1.35。生活習慣改善への意欲がやや低く、喫煙率が高く、肝機能指標が高値で、より複合的なリスクプロファイルを有する傾向でした。

効果修飾因子の重要度分析では、生活習慣改善への意欲、喫煙状況、拡張期血圧、飲酒頻度、肝機能指標(GOT・γ-GTP)、歩行習慣、運動習慣、年齢が上位に同定されました。特に、行動特性や代謝特性といった修正可能な因子が、年齢などの固定的な因子よりも効果の個人差を強く説明することが示されました。

 

社会的意義と実装可能性

本研究は、モバイルヘルスを活用した疾病管理プログラムが高血圧管理において1年間にわたり有意義な効果を持つことを、因果推論の枠組みを用いて示した点で重要です。加えて、治療効果の大きな個人差を定量的に明らかにしたことで、「誰にどのような介入を届けるべきか」という個別化戦略への道筋を示しました。

実装の観点からは、生活習慣改善への意欲が比較的高く、すでに一定の健康行動を有する人に対しては、Mystarのように生活習慣のセルフモニタリング、定期的な電話支援、個別フィードバックを組み合わせたサービスが特に活用されやすい可能性が示されました。これは、デジタルツールを一律に提供するのではなく、利用者の準備性や行動特性に応じて支援を届けることの重要性を示しています。一方で、同じサービスであっても十分な変化につながりにくい層が存在する可能性も示されており、より丁寧なフォローアップや支援強度の調整が必要になると考えられます。

本研究は観察研究であり、因果関係を断定するものではありませんが、標的試験エミュレーションと未測定交絡に対する感度分析を通じて、結果の妥当性を慎重に検討しました。本研究成果は、デジタルヘルス介入をより個別化し、現実の保健事業に活かしていくうえでの重要な知見を提供するものです。

論文情報

株式会社PREVENT

2016年7月設立の名古屋大学医学部発スタートアップ企業。企業健保・自治体国保に向けて、保健事業の計画立案や生活習慣病重症化予防事業の提供、保健事業の事業評価などを推進。また、保険者支援の事業を通じて培った「データ解析力」、「RWD」、「各種ソリューション」等のアセットを活用し、製薬業界に関わるステークホルダーへの支援を推進している。大学発スタートアップとしてデータや研究ノウハウを活用したデータ駆動型の事業に強みを持つ。

PREVENT Insight Lab

PREVENTのビジョン、「科学と社会実践の融合」を具現化するために立ち上げられた研究部門であるInsight Labは、最新の科学的成果を社会に適用し、研究成果の社会への実装を通じて社会問題の解決に貢献することを目標としています。健康関連を含む多岐にわたる分野での研究プロジェクトを進行させ、理論から実践への架け橋となる役割を担っています。

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