株式会社PREVENT(本社:愛知県名古屋市、代表取締役:萩原悠太、以下 PREVENT)は、社内研究組織Insight Labを中心に、日本の保険会社に勤務する腰痛を有する従業員を対象に、「理学療法士による1回30分・単回の個別アドバイスセッション」を職場で実施し、そのリーチ・導入・実施状況・有効性をRE-AIMフレームワークを用いて評価しました。その結果、この短時間のセッションは職場での実施可能性が高く、痛みの強さそのものは大きく変化しなかった一方で、フォローアップを完了した参加者の一部において身体機能障害(disability)の臨床的に意味のある改善がみられることを明らかにしました。
本研究成果は、行動医学分野の国際学術誌である Translational Behavioral Medicine に掲載されました。
参照リンク: https://doi.org/10.1093/tbm/ibag029
腰痛の生涯経験がある従業員1,201名のうち、154名(12.8%)が職場で実施した理学療法アドバイスセッションに参加し(Reach)、参加者のうち68名(44.2%)が3か月後のフォローアップを完了しました(Implementation)。
すべてのセッションはプロトコルどおりに実施され、単回・短時間のアプローチが職場で実施可能であることが示されました。
痛みの強さ(NRS)は平均で有意な変化を示しませんでした(平均変化 +0.12, p=.541)。一方で、レスポンダー分析では、参加者の17.6%が痛みの臨床的に意味のある改善(MIC:2点以上の低下)を達成し、35.3%が身体機能障害(RMDQ)でMICを達成しました。腰痛を生産性低下の主因と認識する参加者の割合は、ベースラインの58.8%から3か月後には16.2%へと減少しました。参加者と非参加者の群間比較(ANCOVA)では、いずれのアウトカムにおいても統計的に有意な差は認められませんでした。
本研究は、腰痛を有する従業員に対する「単回の職場理学療法アドバイスプログラム」のリーチ、導入、実施状況、および予備的な有効性を評価することを目的とした、前向きの準実験的(pre-post quasi-experimental)研究です。生物心理社会的(biopsychosocial)アプローチは腰痛に有効であることが知られていますが、資源の制約が大きい職場では包括的な介入の実装が難しいという課題があります。そこで本研究では、この包括的アプローチを1回・短時間・個別のアドバイスセッションへと適応させ、実社会での実施可能性を高めることを目指しました。
調査は2024年8月から10月にかけて、日本の保険会社の2つの支社で実施されました。「これまでに腰痛を経験したことがあるか」という質問に「はい」と回答した20〜65歳の従業員を対象に、メールでセッションへの参加案内を送付しました。介入は、有資格の産業理学療法士が1対1・対面で行う約30分のセッションで、教育(腰痛のメカニズムと予後の説明による誤解の修正と自己効力感の向上)、認知・行動的戦略(恐怖回避思考への対応)、身体的アドバイス(姿勢や動作の指導)、セルフマネジメント計画(目標設定と能動的な対処戦略)から構成されました。
アウトカムはベースラインと3か月後に評価し、痛みの強さ(数値評価スケール:NRS)、機能障害(Roland-Morris Disability Questionnaire:RMDQ)、労働生産性損失および症状の持続時間(QQ法)を測定しました。有効性は平均変化に加え、最小重要変化(MIC)に基づくレスポンダー分析によって補完的に評価しました。また、参加者・非参加者・企業担当者への半構造化インタビューを併せて実施し、量的評価を補完しました。
対象となった2つの支社では、ベースライン調査に回答した2,223名のうち1,201名が腰痛の生涯経験ありと判定され、参加案内が送付されました。このうち154名(12.8%)がセッションに参加し、これはおよそ8人に1人が参加したことに相当します。3か月後のフォローアップ調査には185名が回答し、うち68名が参加者、117名が非参加者でした。参加者154名のうち68名(44.2%)が3か月後の完全なアウトカムデータを提供し、群内の前後比較に含まれました。
有効性については、痛みの強さ(NRS)はベースラインから3か月後にかけてほとんど変化しませんでした(平均変化 0.12, 95%信頼区間 −0.46〜0.70, p=.541)。一方、身体機能障害(RMDQ)は有意に改善し(平均変化 −1.58, 95%信頼区間 −2.51〜−0.65, p<.001)、24名(35.3%)がMICの閾値を達成しました。痛みについても12名(17.6%)が臨床的に意味のある改善を達成しました。症状の持続時間は減少傾向を示し(平均変化 −29.06時間/3か月, p=.051)、腰痛を生産性低下の理由として挙げた参加者は58.8%から16.2%へと減少しました。参加者と非参加者の群間比較(ベースライン値と性別を調整したANCOVA)では、いずれのアウトカムでも統計的に有意な差は認められませんでした。
質的分析からは、個別化された具体的なアドバイスがプログラムの中核的な価値として評価される一方、時間的制約や競合する業務、会場までの移動といった実務的・物理的な負担が、参加およびフォローアップの主な障壁となっていたことが示されました。
本研究は、資源制約の大きい職場において、生物心理社会的アプローチを1回・短時間の個別アドバイスへと適応させた介入が実施可能であり、痛みそのものの軽減よりも身体機能障害の改善やセルフマネジメントの支援に寄与しうることを、実社会の職場環境で示した点で意義があります。平均値では痛みの変化が小さかった一方、約3人に1人が機能障害の意味ある改善を達成したという結果は、腰痛が痛みと障害を切り離して捉えうる生物心理社会モデルの考え方と一致しています。すなわち、単回のセッションはすべての従業員の痛みを一律に取り除くものではないものの、反応しやすいサブグループにおいては障害の軽減に効果的でありうることを示唆しています。
実装の観点からは、プログラムの目的と内容を明確に伝えること、上司・同僚からの支援、柔軟なスケジュール設定、複数の手段を組み合わせたフォローアップ体制の整備が、リーチと継続率の向上に重要であると考えられます。また、単回の介入効果は短期的になりやすいことから、ブースターセッションや継続的な相談機会を組み合わせること、さらに個人レベルの支援と職場環境・組織レベルの支援を統合することが、効果を最大化する上で望ましいと考えられます。一方で、本研究は堅牢な無作為化対照群を欠く準実験的デザインであり、自己選択バイアスや脱落(参加者154名のうちフォローアップデータ提供は68名)といった限界があるため、有効性に関する知見は探索的なものとして解釈する必要があります。今後は、より大規模で多様なサンプル、より強固な比較デザイン、長期的なフォローアップによる検証が求められます。
株式会社PREVENTは企業様向け事業として、健康経営・労働安全の観点から企業と従業員を支援するサービス「SaniQara(サニカラ)」を展開しております。詳細:https://prevent.co.jp/saniqara/
2016年7月設立の名古屋大学医学部発スタートアップ企業であり、企業健保・自治体国保に向けて、保健事業の計画立案や生活習慣病重症化予防事業の提供、保健事業の事業評価などを推進。また、保険者支援の事業を通じて培った「データ解析力」、「RWD」、「各種ソリューション」等のアセットを活用し、製薬業界に関わるステークホルダーへの支援を推進している。大学発スタートアップとしてデータや研究ノウハウを活用したデータ駆動型の事業に強みを持つ事業を展開しています。
PREVENTのビジョン、「科学と社会実践の融合」を具現化するために立ち上げられた研究部門であるInsight Labは、最新の科学的成果を社会に適用し、研究成果の社会への実装を通じて社会問題の解決に貢献することを目標としています。健康関連を含む多岐にわたる分野での研究プロジェクトを進行させ、理論から実践への架け橋となる役割を担っています。
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