2026.07.17 論文

【論文公開】肥満のある高血圧男性では、食塩摂取量の変化と血圧の変化がより強く関連 :食塩感受性の臨床的意義を検証

株式会社PREVENT(本社:愛知県名古屋市、代表取締役:萩原悠太、以下 PREVENT)は、社内研究組織Insight Labを中心に、名古屋市立大学との共同研究として、遠隔生活習慣改善プログラムに参加した高血圧を有する成人男性1,095名の実データを解析し、肥満のある人ほど食塩摂取量と血圧の関連が強く、食塩摂取量の減少が血圧の低下とより強く結びついていることを明らかにしました。これは、これまで主に実験的な環境で示されてきた「肥満が食塩感受性を高める」という知見が、実社会の生活習慣改善の場面でも当てはまることを示すものです。

本研究成果は、肥満研究分野の国際学術誌である Journal of Obesity に掲載されました。
参照リンク: https://doi.org/10.1155/jobe/1822308

本研究のポイント

遠隔生活習慣改善プログラムに参加した高血圧の成人男性1,095名(年齢中央値57歳、肥満の割合67.2%)を対象に、食塩摂取量と家庭血圧の関連を横断的・縦断的に解析しました。

ベースラインにおいて、食塩摂取量が多いほど収縮期血圧が高いという関連は、肥満群では有意に認められました(最低3分位の推定平均130.7 mmHg、中間132.2 mmHg、最高133.2 mmHg、p=0.028)が、非肥満群では認められませんでした(p=0.174)。

3か月後には、食塩摂取量の減少が大きいほど収縮期血圧の低下も大きいという関連が、肥満群で有意に認められました(最低3分位の推定平均 −2.5 mmHg、中間 −3.5 mmHg、最高 −5.2 mmHg、p<0.001)が、非肥満群では認められませんでした(p=0.335)。

これらの結果は、実社会の生活習慣改善の場面において、肥満のある高血圧男性では食塩摂取量の変化が血圧の変化と関連することを示しており、個別化した血圧管理における食塩感受性の臨床的意義を示唆しています。

研究の概要

肥満は血圧上昇の確立した要因であり、余分な脂肪組織に伴うホルモン・代謝の変化などを通じて腎臓でのナトリウム再吸収の増加や血管機能障害を引き起こし、食塩摂取に対する血圧の反応性(食塩感受性)を高めることが知られています。しかし、これまで肥満と食塩感受性の関連は、極端な高食塩食と低食塩食を一定期間ずつ摂取させるといった厳密に管理された実験的プロトコルによって評価されてきました。こうした極端な食塩制限は実生活では達成が難しく、これまでの知見をそのまま実社会の生活習慣改善プログラムに当てはめられるかは不明でした。

そこで本研究は、日常生活における緩やかで自然な食塩摂取量の変化に着目し、遠隔生活習慣改善プログラムに参加した高血圧の成人男性を対象に、食塩摂取量と血圧の関連が肥満の有無によって異なるかを、横断的・縦断的に検討することを目的とした後ろ向き観察研究です。

対象は、PREVENTが健康保険組合の委託を受けて提供するモバイルアプリを用いた生活習慣改善支援プログラム「MyStar」に2018年12月〜2023年11月に参加した高血圧の成人男性です。日々の食塩摂取量は、尿中ナトリウム排泄量から推定する自己モニタリング機器を用いて食塩相当量(g/日)として推定し、家庭での起床時の収縮期血圧を記録しました。解析にあたっては、食塩摂取量(およびその減少量)を3分位に分け、ベースラインの血圧および3か月間の血圧変化を群間で比較しました。これらの解析は、年齢・歩数・降圧薬の使用・糖尿病・脂質異常症などの交絡因子を調整したうえで、BMI 25 kg/m²以上を肥満と定義して層別化して行いました。

研究の成果

解析対象となった1,095名(年齢中央値57歳、BMI中央値26.4 kg/m²、肥満の割合67.2%)において、ベースラインの起床時収縮期血圧は食塩摂取量の3分位間で有意に異なりました(傾向性のp<0.001)。層別解析では、食塩摂取量が多いほど血圧が高いという関連は肥満群で認められ、交絡因子を調整した多変量解析でもこの傾向は維持されました(p=0.028)。一方、非肥満群ではこの関連は認められませんでした(p=0.174)。

3か月後には、参加者全体の起床時収縮期血圧は平均3.3 mmHg低下しました。縦断解析では、食塩摂取量の減少が大きいほど血圧の低下も大きいという関連が肥満群で有意に認められ(傾向性のp<0.001)、食塩摂取量の減少量と肥満の間には有意な交互作用がみられました。この関連は非肥満群では認められませんでした(p=0.335)。また、肥満はベースラインの血圧が高いことと関連する一方で、3か月間の血圧低下がより大きいこととも関連しており、肥満のある人では生活習慣改善による改善の余地が大きい可能性が示唆されました。

社会的意義と実装可能性

本研究は、これまで厳密に管理された実験環境でのみ示されてきた「肥満が食塩感受性を高める」という知見が、実社会の遠隔生活習慣改善プログラムという現実的な場面でも観察されることを示した点で意義があります。極端な食塩制限ではなく、生活習慣の改善に伴って生じる緩やかで自然な食塩摂取量の変化を評価したため、実臨床の実態をよりよく反映していると考えられます。

実装の観点からは、肥満のある高血圧の方に対しては、減塩が血圧低下に結びつきやすいという食塩感受性の特徴を踏まえた、個別化された血圧管理が有用であることを示唆しています。とりわけ、減塩による早期の血圧低下の実感は自己効力感やモチベーションを高め、長期的な生活習慣改善の継続(アドヒアランス)を後押しする可能性があります。健康状態やライフスタイルに応じてメカニズムを分かりやすく伝えるコミュニケーションは、効果的な介入の重要な要素と考えられます。

一方で、本研究は男性のみを対象とした観察研究であり、因果関係の推定には限界があります。また、食塩摂取量の変化には総エネルギー摂取量を含む食事パターン全体の変化が反映されている可能性があり、食塩摂取の独立した効果を厳密に分離するには、詳細な食事評価を組み込んださらなる検討が必要です。今後は、女性を含めた検討や、より詳細な食事データを用いた検証が求められます。

MyStar(マイスター)について

株式会社PREVENTは、生活習慣病を治療している方々の重症化や再発を防ぐための、オンライン完結型の生活習慣改善支援プログラム「MyStar(マイスター)」を提供しています。高血圧・糖尿病・脂質異常症・脳血管疾患・虚血性心疾患などを対象に、専用アプリとモニタリング機器を用いて脈拍・歩数・睡眠・塩分摂取量などのライフログを可視化し、心臓リハビリテーション指導士や糖尿病療養指導士など専門性の高いスタッフが2週間に1回の電話面談を通じて一人ひとりに寄り添った個別サポートを行います。健康保険組合の組合員・企業の従業員の健康づくりを支援し、重篤な疾病を未然に防ぐことで、医療費の適正化と健康経営に貢献します。これまでに約200組合に導入され、10,000名以上にサービスを提供しています。詳細:https://prevent.co.jp/mystar/

株式会社PREVENTについて

2016年7月設立の名古屋大学医学部発スタートアップ企業。企業健保・自治体国保に向けて、保健事業の計画立案や生活習慣病重症化予防事業の提供、保健事業の事業評価などを推進。また、保険者支援の事業を通じて培った「データ解析力」、「RWD」、「各種ソリューション」等のアセットを活用し、製薬業界に関わるステークホルダーへの支援を推進している。大学発スタートアップとしてデータや研究ノウハウを活用したデータ駆動型の事業に強みを持つ。

PREVENT Insight Labについて

PREVENTのビジョン、「科学と社会実践の融合」を具現化するために立ち上げられた研究部門であるInsight Labは、最新の科学的成果を社会に適用し、研究成果の社会への実装を通じて社会問題の解決に貢献することを目標としています。健康関連を含む多岐にわたる分野での研究プロジェクトを進行させ、理論から実践への架け橋となる役割を担っています。

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